裕福な商人が画家の道へ
若冲は、京都・高倉錦(にしき)小路の青物問屋「桝源(ますげん)」の長男として生まれます。父亡き後も、裕福な商家の主人として17年間も務めましたが、驕り高ぶることなく無欲で、酒の宴など一般の人が楽しむことにも全く興味がない様子でした。逆にその環境に心労を感じていたのか、幼き頃から好きだった「絵を描くこと」に傾倒。40歳で弟に家業を譲り、画業に専念することにした若冲は、生涯独身を通して絵事に熱中しました。
「若冲居士像」久保田米僊 1885年 相国寺蔵
画法を研究し模索する日々
若冲は、初めに狩野派を学び始めました。しかしその画法に通じることで限界を感じてしまい、宗、元、明の絵画研究に着手しました。中国画を模写することで、その写実的な描写法の習得に没頭した若冲ですが、およそ1千点にも及ぶ臨模の中で、またある考えに到達します。それは、模写では先人の後追いとなり、肩を並べられないであろうこと。それに、彼らが描いた対象物を自分がまた描くことは、一つの層を隔てたことになる。それなら、自分で直接自分の目で見たものを描こう!と。
すべては「鶏」から始まった
そこで若冲が目を付けたのが「動植物」。中でも、日常で気軽に触れ合え、且つ羽の色彩も美しい「鶏」に着目しました。鶏数十羽を庭に飼い、写生に明け暮れる毎日。年月を重ねるうちに、その描写対象は草木・鳥獣・虫魚の類に及ぶようになり、その超絶技巧ともいえる技術を習得した、と言われています。尾形光琳の作品からも琳派の彩色法を研究し、装飾的な画風を吸収したことで、若冲は独自の境地を開きました。
左:「花卉双鶏図」伊藤若冲 1754年頃 個人蔵
右:「旭日鳳凰図」伊藤若冲 1755年 宮内庁三の丸尚蔵館蔵
心力を尽くした傑作「動植綵絵」
若冲の代表作の一つである「動植綵絵」は、その超絶技巧を存分に堪能できる作品として有名です。細緻極まる筆致で様々な動植物を描いた彩色の絵で、三十幅にもなる連作は、若冲が40代のほぼ10年間を費やして完成させた大作。完璧に計算されつくしたその技法は、近年の修理により、それまでの想像を上回る技術力を明らかにしました。細かい描写で物の形を捉える力は凄まじく、そして動植物の活力も巧みにとらえた、内面も外面も描き切った傑作は、相国寺に寄進した後、宮内庁三の丸尚蔵館に納められています。
「動植綵絵」伊藤若冲 宮内庁三の丸尚蔵館蔵
左:「老松白鳳図」1765ー66年頃/中:「郡鶏図」1761ー65年頃/右:「諸魚図」1765ー66年頃
極める墨技 モノクロームの世界
「動植綵絵」と同時に、若冲は水墨画や版画、障壁画や押絵貼屏風、画巻など、様々な作品を手掛けています。墨での表現は、若冲の表現をさらに広げていきます。強い吸水性によって、滲む墨面同士が混ざり合わず、白線のような境目を浮かび上がらせる画箋紙の性質を利用して、隣接する滲みで濃淡の境界を作り、花卉・羽毛・鱗が並んでいる様子を描き分ける技術力は「神業」のようで、多くの人に感嘆の声をもたらしたと言われています。
「象と鯨図屏風」1795年 MIHO MUSEUM蔵
終わりなき創作欲
晩年の若冲は、京都の大半を焼き尽くした天明の大火から逃れ、大病を抱えながらも、深草の石峰寺で隠遁層として細々と暮らしていました。隠居生活の中、寛政12年(1800年)に、数え85歳でこの世を去りましたが、旺盛な制作欲で70~80代にも傑作をうみだすほど、最期まで筆を置くことはありませんでした。若冲は還暦以後、改元のたびに年を一つ加算しており、作品によっては款記と事実が異なる作品があると考えられていますが、その意図は定かではありません。
「仙人掌郡鶏図」伊藤若冲 1789年 西福寺蔵
人気高まる若冲の魅力
当時も画家として認められてはいましたが、明治期には再評価が始まり、現代人に名が知れ渡るようになったのは、没後200年を記念して2000年に京都国立博物館で開催された展覧会とされています。独自の色彩センスと類まれなる写実力、そして凡人離れした表現力を存分に発揮し、私たちをただただ圧倒する若冲の作品たちは、昨今の若冲人気をさらに加速させ、更なる注目を集めることでしょう。
ミュージアムグッズで楽しもう!
当店で販売中の若冲グッズが、オンラインショップにも登場!日常で使えるミュージアムグッズが豊富に楽しめます。
若冲特有の細やかな描写力と色彩感覚が感じられるグッズは、まるで絵画そのものを手元に持っているかのような感覚を楽しむことができます。
御朱印帳 2,200円(税込)/マスキングテープ 550円(税込)
手ぬぐい 1,320円(税込)/ガーゼ手拭い 770円(税込)
三つ折りクリアファイル 樹花鳥獣図屏風 左隻・右隻 各330円(税込)
A4クリアファイル 330円(税込)
マグネット 各440円(税込)
御財布香 495円(税込)
日々の暮らしの中で、若冲の作品を身近に感じながら楽しんでみてはいかがでしょうか。
参考文献
「もっと知りたい伊藤若冲 改定版」佐藤康宏著(東京美術)
「別冊宝島2392号 若冲 名宝プライスコレクションと花鳥風月」(宝島社)